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独立行政法人国立病院機構 まつもと医療センター

診療内容

脳神経内科とは

脳神経内科は、脳・脊髄・末梢神経や筋肉の病気を診察する内科です。脳神経内科の受診が勧められる症状には、もの忘れ、しびれ、めまい、うまく力がはいらない、歩きにくい、ふらつく、ひきつけ、むせ、しゃべりにくい、ものが二重にみえる、頭が痛む、勝手に手足や体が動いてしまう・・・など、たくさんあります。脳神経内科では、まず全身を診て“どこの病気であるか”を見極めます。その上で、骨や関節の病気がしびれや麻痺の原因なら整形外科に、脳や脊椎の手術などが必要なときは脳神経外科に、精神的なものが疑われる場合には心療内科や精神科にご紹介します。また、眼科や耳鼻科にご紹介する場合もあります。

当院の脳神経内科の特徴

当院の脳神経内科では、急性期から慢性期の様々な神経疾患を扱っていますが、特にパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病の診療では地域の基幹施設として機能しています。診断にあたっては、十分な診察と適切な検査を心がけ、あらゆる可能性を検討しています。また、エビデンスに基づく治療に加えて最新の知見にも注意をはらい、個々人にあった最良の治療を目指しています。パーキンソン病の治療では、早期からのリハビリテーション療法にも積極的に取り組み、特に米国でパーキンソン病に有効性が確認されているリハビリテーションプログラム(LSVT-BIG®、LSVT-LOUD®)を入院で行っています。また、神経難病8疾患を対象としたCYBERDYNE社製ロボットスーツHAL®下肢タイプを用いた歩行機能改善治療を行っています。 また認知症の診療にも力を入れており、もの忘れ外来を設けています。さらに、神経疾患とその合併症の治療、機能回復・維持のリハビリテーションに加えて、患者さんの在宅での生活や介護する家族をも視野に入れた、全人的な支援態勢つくりを目指してチーム医療を行っています。医療介護度の高い難病患者のレスパイト入院も受け入れ、患者さんの尊厳と安全に十分配慮しながら苦痛の除去と安寧に配慮した緩和ケアを行っています。

脳神経内科の検査

神経内科の検査では、神経の伝導速度や筋電図などの神経生理検査、 神経心理検査(神経心理検査について)、神経病理学的検査を自施設で行っています。特に早期に組織診断が必要となる、多発筋炎、多発根神経炎などの免疫性神経疾患の診断に際しては、筋生検や神経生検を施設内で行い、免疫染色を含めて病理学的検索を行って迅速な診断に努めています。

神経難病のケア

神経疾患の進行に応じて、胃ろう造設などの栄養摂取の手段の確保、気管切開や人工呼吸器などの医療的ケアの導入やコミュニュケーション手段の確保が必要となる場合があります。これらの導入にあたっては、検査などで客観的な評価を行うとともに、消化器内科や呼吸器外科、リハビリテーション(理学療法士、作業療法士、言語療法士)など、関連する診療科や部門と密に連携しています。

入院患者の状況

パーキンソン病およびパーキンソン病関連疾患、ALS、認知症、てんかん、末梢神経障害、脊髄小脳変性症などの慢性疾患や神経難病の患者さんが多く入院しています。神経疾患の合併症の治療や、診断のための検査入院もあります。当科での長期入院が必要となる患者さんでは、気管切開などの高度の医療的な処置が必要な方が多く、特に筋萎縮性側索硬化症などで人工呼吸器を装着している患者さんを対象にして、平成21年11月から“療養介護事業”を開始しました。現在、療養介護病床30床を運用し、人工呼吸器を装着して長期の入院を必要とする神経難病の患者さんに対して医療のみならず福祉サービスも提供し、安心して生活できることができる環境つくりに取り組んでいます。

「神経難病」について

運動神経系、感覚神経系、認知機能、自律神経機能が、単一またはさまざまな組み合わせでもって障害され、症状は緩徐に進行性で、社会生活を営む上で必須である働きの遂行が次第に困難となる疾患(群)を総称して「神経難病」と呼んでいます。

運動障害を来たす疾患では、筋萎縮性側索硬化症や脊髄小脳変性症、パーキンソン病が代表的です。筋萎縮性側索硬化症は、運動神経細胞が選択的に脱落するために、筋の萎縮(痩せ)を来す疾患です。一方、パーキンソン病や脊髄小脳変性症は、運動の調節に関与する大脳の基底核や小脳の神経細胞の変性により不随意運動や筋の緊張の異常を来たす結果、円滑な運動が出来なくなる疾患です。

物忘れ外来

「認知機能障害」の代表的な疾患であるアツハイマー型認知症は、認知に関与する部分の神経細胞が変性するために起こります。これらの疾患は、現時点ではまだ根治的な治療がないので、症状を軽減させたり、進行を遅らせたりする治療薬が使われます。もの忘れ外来による認知症診療を通して、地域の家庭医との病-診連携、病-病連携を推進しています。

当科では、認知症の診断に力を入れていますが、アルツハイマー型認知症の前段階である「軽度認知障害」に対する、新しいお薬を試す「治験」を行ったり、全国の軽度認知障害の登録事業に参加しています。

在宅療養支援について

慢性進行性の神経疾患では、症状の進行とともに、さまざまな医学的な二次障害を合併するために、多方面にわたる医療の提供が欠かせません。近年、このような進行性の障害を持ちながらも、健康な人の中にまじって自由に生活することを希望して、在宅療養を選択する患者さんが増えています。

慢性進行性の神経疾患は患者さんの生活、人生全体に大きな影響を与えます。職業を失う、経済的に自立できなくなる、日常生活に介護が必要になる、などの状況に対しては、医師や保健婦、訪問看護婦による専門的な知識や技術の提供だけでなく、介護・福祉面ではヘルパーさんなどによる日常生活に必要なマンパワーの確保、さらに年金・手当金などの経済的援助など、さまざまな制度や仕組みを上手に利用してゆくことが必要になります。当院では、 包括医療支援センター(地域医療連携室・相談支援センター)が中心となって、神経内科医と密に連絡をとりながら、個々の患者さんやご家族に則した在宅療養支援に取り組んでいます。

また、在宅療養中で医療度の高い神経難病患者に対して長く在宅療養が継続できるよう、介護者の負担軽減・休息を目的とした入院(レスパイト入院)の受け入れも行っています。

令和5年度診療実績 入院患者数

脊髄性筋萎縮症 30人
パーキンソン病 28人
脳梗塞 24人
原発性筋障害 20人
基底核変性疾患 15人
遺伝性運動失調症 10人
てんかん 9人
重症筋無力症 7人

診療体制

常勤5名によるチーム医療を行っています。外来診療は平日平均2名が担当し、入院診療は外来当番以外の医師2~3人で行っています。

活動内容

  1. 携帯デバイスを利用した在宅と医療機関のコミュニケーションツールの運用
    • モバイル電子ケアチームへの参加 神経難病患者での運用継続
    • 視線入力センサーを用いた意志伝達機器の導入
  2. 内科、脳神経内科関連学会への参加、剖検症例の検討会、神経病理学会での発表
  3. NHOネットワーク共同研究(認知症研究、経管栄養患者に対するカルニチン補充療法)への参加
  4. 神経難病に対する臨床研究と治療の推進(ALS、認知症その他の疾患に対する臨床治験の推進)
  5. 院内における汎用人工呼吸器アラーム通報二重化の試み

業績(2016年、2017年度)

(太字は当院医師)

  1. Nakamura A, Fueki N, Shiba N, Motoki H, Miyazaki D, Nishizawa H, Echigoya Y, Yokota T, Aoki Y, Takeda S. Deletion of exons 3-9 encompassing a mutational hot spot in the DMD gene presents an asymptomatic phenotype, indicating a target region for multiexon skipping therapy.
    J Hum Genet 61(7); 663–667, 2016.
  2. Miyazaki D, Nakamura A, Hineno A, Kobayashi C, Kinoshita T, Yoshida K, Ikeda S. Elevation of serum heat-shock protein levels in amyotrophic lateral sclerosis. Neurol Sci 37(8): 1277–1281, 2016.
  3. Kobayashi C, Miyazaki D, Kinoshita T, Hineno A, Nakamura A. Increasing incidence and age at onset of amyotrophic lateral sclerosis in Nagano prefecture of Japan. Shinshu Med J 64: 239–246, 2016.
  4. Nishizawa H, Shiba N, Nakamura A. Usefulness of continuous actigraph monitoring in the assessment of the effect of corticosteroid treatment for Duchenne muscular dystrophy: a case report. J Physiol Ther Sci. 28: 3249–3251, 2016.
  5. Kimura K, Morita H, Nakamura A, Takenaka K, Daimon M. Therapeutic strategy for heart failure in Becker muscular dystrophy. Int Heart J 57(5): 527–529, 2016.
  6. Imamura M, Nakamura A, Mannen H, Takeda S. Characterization of WWP1 protein expression in sleletal muscule of muscular dystrophy chikens. J Biochem 159(2): 171–179, 2016.
  7. Morisaki Y, Niikura M, Watanabe M, Onishi K, Tanabe S, Moriwaki Y, Okuda T, Ohara S, Murayama S, Takao M, Uchida S, Yamanaka K, Misawa H. Selective expression of osteopontin in ALS-resistant motor neurons is a critical determinant of late phase neurodegeneration mediated by matrix metalloproteinase-9. Sci Rep. 6: 27354, 2016.
  8. Oyanagi K, Yamada M, Hineno A, Yahikozawa H, Ushiyama M, Miki J, Kanno H, Nakayama J, Makishita H, Inoue K, Ohara S, Hayashida K, Kayanuma K, Yamamoto K, Yasude T, Hashimoto T, Yoshida K, Ikeda SI. Shinshu Brain Resource Net. Neuropathology 36: 600–601, 2016.
  9. Nakamura A, Shiba N, Miyazaki D, Nishizawa H, Inaba Y, Fueki N, Maruyama R, Echigoya Y, Yokota T. Comparison of the phenotypes of patients harboring in-frame deletions starting at exon 45 in the Duchenne muscular dystrophy gene indicates potential for the development of exon skipping therapy. J Hum Genet 62(4): 459–463, 2017.
  10. Echigoya Y, Nakamura A, Maruyama R, Nagata T, Urasawa N, Rowel Q, Lim K, Trieu N, Panesar D, Kuraoka M, Moulton H, Saito T, Aoki Y, Iversen P, Sazani P, Kole R, Partridge T, Takeda S, Yokota T. Effects of systemic multi-exon skipping with peptide-conjugated morpholinos in the heart of a dog model of Duchenne muscular dystrophy. Proc Natl Acad Sci USA 114(16):21–27, 2017.
  11. Yoshida K, Hayashi H, Wakusawa S, Shigemasa R, Koide R, Ishikawa T, Tatsumi Y, Kato K, Ohara S, Ikeda SI. Coexistence of copper in the iron-rich particles of aceruloplasminemia brain.
    Biol Trace Elem Res. 175: 79–86, 2017.
  12. Nakamura K, Yoshida K, Matsushima A, Shimizu Y, Sato S, Yahikozawa H, Ohara S, Yazawa M, Ushiyama M, Sato M, Morita H, Inoue A, Ikeda SI. Natural history of spinocerebellar ataxia type 31: a 4-year prospective study. Cerebellum 16: 518–524, 2017.
  13. Tokuda E, Anzai I, Nomura T, Toichi K, Watanabe M, Ohara S, Watanabe S, Yamanaka K, Morisaki Y, Misawa H, Furukawa Y. Immunochemical characterization on pathological oligomers of mutant Cu/Zn- superoxide dismutase in amyotrophic lateral sclerosis. Molecular Neurodegeneration 12: 2, 2017.
  14. Takei Y, Koshihara H, Oguchi K, Oyanagi K, Ohara S. An autopsy case of respiratory failure induced by repetitive cervical spinal cord damage due to abnormal movement of the neck in athetoid cerebral palsy. Intern Med 56: 1425-1430, 2017.

和文原著

  1. 國松淳和、前田淳子、渡邊梨里、加藤温、岸田大、矢崎正英、中村昭則.外来における不明熱の原因疾患としての家族性地中海熱の重要性.Jpn J Clin Immunol 39: 130–139, 2016.
  2. 中村昭則、滝沢正臣、宮崎大吾、日根野晃代、吉川健太郎.人工呼吸器のアラーム伝送の試み(第3報)日本遠隔医療学会雑誌12: 90–93, 2016.
  3. 滝沢正臣、中村昭則、日根野晃代、渡辺美緒.在宅難病患者総合情報共有のための電子チームケアシステムの利用評価.日本遠隔医療学会雑誌12: 153–156, 2016.
  4. 吉川健太郎、滝沢正臣、中村昭則.現用人工呼吸器のアラーム伝送の試み.日本遠隔医療学会雑誌12: 98–101, 2016.
  5. 滝沢正臣、中村昭則、吉川健太郎、日根野晃代.在宅利用人工呼吸器開発のための国内調査.日本遠隔医療学会雑誌12:94–97, 2016.
  6. 中村昭則、武田伸一.骨格筋機能―発達と加齢.Clinical Neurosicence 34(3): 273–276, 2016.
  7. 中村昭則.長野県における筋ジストロフィーに対するチーム医療と遠隔医療の試み.特集:筋ジストロフィーの長期の医療と教育.医療70 (7): 323–328, 2016.
  8. 中村昭則.在宅人工呼吸器の遠隔アラーム通報、監視システムの開発.信州医誌64(4):201–203, 2016.
  9. 両角由里、四方有美、中村昭則.長野県難病相談支援センターの取り組み.難病と在宅ケア 22 (3): 17–21, 2016.
  10. 中村昭則.ICTを用いた在宅遠隔医療の現状と取り組み、特集リハビリテーション.介護領域におけるICTの活用3.在宅医療 総合リハビリテーション.医学書院44(12):1049–1056, 2016.
  11. 中村昭則、武田伸一.筋ジストロフィーの新しい治療.整形・災害外科 金原出版60(1): 87–93, 2017.

総説

  1. 武井洋一、池田修一.尿毒症性脳症.田村晃、松谷雅生、清水輝夫.他編、EBMに基づく脳神経疾患の基本治療指針 改訂第4版 pp.575-576、メジカルビュー社、東京、2016.
  2. 中村昭則、武田伸一:新しい医療技術 筋ジストロフィーの新しい治療.整形・災害外科.金原出版 60(1):87-93, 2017.
  3. 中村昭則:在宅人工呼吸器の遠隔監視、アラーム通報の試み、連載シリーズ「人工呼吸療法」.難病と在宅ケア23(3):51–54, 2017.

スタッフ