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独立行政法人国立病院機構 まつもと医療センター

診療内容

当センターの呼吸器外科では肺や縦隔、胸壁などの疾患に対して外科治療を行っています。3人の呼吸器外科医が呼吸器内科医、放射線治療医と協力して、チーム医療を基本とし診療を行っています。治療対象となる主な疾患には、肺がん、気胸、膿胸、肋骨骨折などの胸部外傷、胸腺腫などの縦郭腫瘍、胸膜中皮腫があります。また、限られた患者さんではありますが、転移性肺腫瘍(他臓器原発のがんが肺に転移したもの)を外科治療することもあります。当センターは年間約110例前後の呼吸器外科手術を行っています。患者さんの早期社会復帰を目指して、体に負担の少ない低侵襲な胸腔鏡手術を基本としております。外科治療の前後に追加して薬の治療(抗がん剤など)や放射線の治療が必要な場合にも、引き続き呼吸器外科医が治療にあたることがあります。

(1) 肺がんの診療
 すでに皆さんもご存知の様に、肺がんは日本人のがんによる死亡原因の1位を占めています。そのため、肺がんと聞くと予後が悪く助からないがんであるとの認識の方も多いかと思われます。予後が悪い第1の原因は、ほとんどの場合かなり進行しないと症状が発現しないことです。  しかし、近年胸部CT検診が長野県各地で導入され、早い段階で発見される症例も多く認められます。それらの患者さんは外科治療により多くの方が治っています。現在喫煙されている方もしくは過去に喫煙された方は、少なくとも年1回の胸部レントゲンあるいは胸部CTの検診の受診をお勧めします。また、タバコを吸わない方も肺がん(特に高分化腺がん)に罹患することがありますので、年1回の胸部レントゲンあるいは3年毎の胸部CTの検診の受診をお勧めします。 近年、ご高齢の方の肺がんも増えてきました。当センターではご高齢の方でも自立した生活が長期間続けられるように、胸腔鏡による内視鏡手術や部分切除・区域切除などの肺の切除範囲を縮小した低侵襲な手術を積極的に行っています。また、術後の患者さんの生活の質が少しでも向上するように、医師・看護師だけでなく、理学療法士、栄養士、薬剤師、歯科衛生士、社会福祉士などが密に連携して、術前・術後を通してサポートいたします。

肺がん患者さんの受診契機別症例数と外科治療の割合(2007-2021年)
肺がん患者さんの治療法別患者数割合(2007-2021年)
肺がんの組織型別患者数分布 全肺がんおよび手術例(2007-2021年)
肺がんの病期別患者数分布 全肺がんおよび手術例(2007-2021年)
肺がん年次別・術式別症例数(2011-2021年)
肺がん手術症例 病理病期0-2期生存曲線(2007-2021年)
肺がん手術症例 病理病期3-4期生存曲線(2007-2021年)
肺がん手術症例 病理病期別生存率(2007-2021年)
全肺がん症例 臨床病期0-2期生存曲線(2007-2021年)
全肺がん症例 臨床病期3-4期生存曲線(2007-2021年)
全肺がん症例 臨床病期別生存率(2007-2021年)

(2) 転移性肺腫瘍の診療
 肺以外のさまざまな臓器の悪性腫瘍(がん、肉腫)が肺に転移を来した病態です。原発部位(初めに出来たがん)の治療がすでに終わっていて、肺の病変を完全に切除可能な場合は積極的な外科治療を行ってます。当院では現在まで20種類の悪性腫瘍の肺転移例の手術を経験しています。症例数を見ると、大腸(結腸と直腸)がんの肺転移例の手術が圧倒的に多く、以下腎細胞がん、乳がん、胃がんの順です。手術後は、再度紹介医に戻っていただきます。多くの場合はそれぞれのがんに効果のある薬の追加治療が必要です。当院では転移性肺腫瘍に対しても積極的に胸腔鏡手術を行っています。

転移性肺腫瘍 原発部位別手術症例数(2007-2021年)

(3) 気胸の診療
 気胸とは肺の表面に穴が開き肺内の空気が胸腔内に漏れて肺が縮んでしまう病態です。症状としては呼吸困難や胸痛が出現します。気胸の中には、若年者(10代から30代の男性に多い)に発症する原発性気胸(狭義の自然気胸)と肺気腫、結核等の肺疾患のある高齢者に発症する続発性気胸があります。

1) 原発性気胸
 原因はブラおよびブレブと呼ばれる表面が薄くなった風船状の病変(気腫性嚢胞)が自然に破裂することで発症します。ほとんどの症例は胸腔鏡下に小さい創で自動縫合器を使っての肺部分切除、あるいは縫縮する治療で治ります。以前は、初回発症時は胸腔内に管を挿入して吸引し手術を施行せず保存的に治療し、再発した場合は手術の方針というのが一般的でしたが、現在はCTで明らかな病変が認められた場合は初回発症でも多くの場合、手術をお勧めしています。ほとんどの症例では術後3~5日程度で退院が可能です。ブラが多数存在している方や喫煙を続けている方では術後の再発も起こり、術後の再発率は5~15%と言われています。再手術の術式は当院では、ほとんどの症例で肺の切除は行わず、胸腔鏡下に病変部を縫合したり、胸腔内の脂肪を病変部に縫着したりする方法をとっています。また、微小なブラに対しては、低温で焼灼し、吸収性のシートで肺表面を被覆するという方法もとっています。
若年者の自然気胸手術例と再発率(1996-2021年)

2) 続発性気胸
 肺気腫や肺結核らの肺疾患に続発する気胸は高齢者がほとんどで、肺全体に及ぶ病変を認め、さらに元々の肺疾患のため呼吸機能が低下しております。そのため、はじめは胸腔内に管を挿入し保存的治療を行います。しかし、保存的治療で軽快しない症例や再発症例に対しては可能であれば外科治療を行います(参考資料#3)。全身状態や呼吸機能が悪く、全身麻酔が困難な方に対しては、胸腔内に薬剤等を注入する胸膜癒着術を行います。
続発性気胸に対する治療法別症例数(2007-2021年)

(4) 縦郭腫瘍の診療
 心臓、血管、気管および食道の周囲の胸部に発生した腫瘍を縦隔腫瘍と言います。良性腫瘍もあり、増大するかどうか経過を見ることもありますが、外科治療が必要な腫瘍も多くあります。もっとも頻度が高い腫瘍は胸骨と心臓の間に発生する胸腺腫です。ほとんどの場合は手術適応で、進行すると術後に放射線照射が必要です。近年、縦隔腫瘍に対する外科治療でも患者さんの体の負担を少なくするため、鏡視下手術が取り入られるようになってきました。当院では早期の胸腺腫や神経原性腫瘍などに対して積極的に胸腔鏡手術を行っています。

縦隔腫瘍の外科治療 腫瘍別症例数(2007-2021年)

(5) 膿胸の診療
 肺の炎症(肺炎)が肺表面の胸膜に達して肺外の胸腔内に波及し、胸腔内に胸水(感染性の胸水で膿状の事もあり)が貯まった病態です。胸腔内に管を挿入し、抗生物質の投与を行っても胸の中の水が減少しない場合、あるいは炎症所見の軽快が認められない場合は、胸の中をきれいにする外科治療(胸腔内掻爬、醸膿胸膜・胸膜胼胝切除術)が必要です。当院は肺結核を始め、難治性の呼吸器感染症患者さんを多数ご紹介いただいておりますので、膿胸や肺感染症に対する外科治療にも力をいれています。

膿胸の外科治療 術式別症例数(2007-2021年)

診療実績(令和3年度)

肺癌及び気管支癌 111人
気胸 35人
膿胸 9人
呼吸器及び消化器の続発性悪性腫瘍(後腹膜癌など) 6人
間質性肺炎 4人
細菌性肺炎 3人

診療体制

常勤の呼吸器外科医3名によるチーム医療を行っています。外来は呼吸器外科専門医2名が毎日交代で午前・午後と診療を行っています。手術日は原則、水曜日と金曜日です。入院患者さんの診療(回診)は、平日は午前・午後の2回、土日は午前1回行います。また、気胸や肋骨骨折などへの緊急対応は、夜間や休日でも呼吸器外科医が対応できるように体制を整えております。

その他

当センターでは、小さな肺がんを安全に切除するため、全国に先駆けて術中超音波診断装置を用いて肺部分切除や区域切除などの外科治療を行っています。

また、国立病院機構ネットワーク研究機構(NHO)、北東日本研究機構(NRJ)、西日本がん研究機構(WJOG)、胸部腫瘍臨床研究機構(TORG)、信州大学研究グループなどに参加し、呼吸器疾患に対するより良い治療法の研究に協力しています。革新的な新しい治療法に適応がありそうな患者さんには治験へのご参加をご案内させていただくこともあります。

当センターは、日本肺癌学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器外科学会、日本呼吸器内視鏡学会の4学会が合同で運営する肺癌登録合同委員会主催の、第7次事業:2010年肺癌手術症例の全国登録調査に協力しています。登録症例の解析結果をもとに、最新の肺癌治療成績を把握し、今後の肺癌診療に活かしていく予定です。研究計画書は、事務局である大阪大学 呼吸器外科学のホームページにも掲載されていますので、必要な場合はご確認ください。個人情報の管理は厳重にしておりますので、ご理解お願いします。

がん情報

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参考文献

(アンダーラインは当院医師)

#1

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#2

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